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短い、短い、ものがたり。

和香さんに絵を描いてもらいました。


ひとりぼっちのねこ 

作文:もりけん
描画:和香


ほとんどひとりで過ごしてきたのよ。
もちろん生んでくれた母親はいたわ。
でも知らないうちに消えちゃった。
わたしは、きっと置き去りにされたのね。

それからは必死で生きてきたわ。
ろくでもないのにも引っかかったわ。
とにかくいっぱい恋をしてね。
わたし、実は、けっこうモテたの。

でも、男は必ずどこかに行っちゃうのよ。
それはきっと仕方のないことよね。
そういう生きものだって、諦めたわ。
男なんてものはみんなそう。

後悔なんてぜんぜんしていないわ。
子どもたちもたくさん産んだし。
子どもたちがいたから楽しかった。
そんな子どもたちももういないけど。

空き家を見つけてはそこで暮らしたわ。
人が来たらあわてて隠れていたの。
だって怖いし、酷いことをするから。
たまにやさしいひともいたかな。

みんなはわたしを、ノーラって呼んだわ。
ちょっとかっこいいでしょ?
そんなわたしは今、ひとりぼっち。
真っ白で綺麗だった毛も色あせちゃったわ。

ジャンプもできないし、木登りも無理。
世話してくれる仲間にも迷惑をかけている。
運んでくれた食べものも残してばかり。
すっかり痩せちゃったみたいね。

わたし、なんのために生まれてきたのだろう?

わたし、だれのためにがんばってきたのだろう?

ノーラの頬を涙がつたいました。

それからうれしそうに微笑みました。

やがて、ゆっくり目を閉じました。

気がつくと、真っ白な雪が降っていました。