【短編-1 他人の人生(A)】
ああ、群れの中にひとりだけ特別な人が混ざっている。
最初にそう思った。
いや、正確には特別な人と言うより違う人という言い方の方がふさわしい。
群れている他の連中には、ほぼ明らかに人生の垢のようなものが身体に貼り
付いているのに、そのひとりだけ、それが感じられない。
垢だらけの私が言うのは恐縮だが、そう見えたものはしかたがない。
さて、その群れとは女性ばかりの集団だ。
たまさか女性ばかりが集団をなしていて、なにやら宴会芸のようなものを
行うということになっていた。
その中に「違う人」が咲いていたのだ。
その女性ばかりの群れを取り囲むように男たちがいた。
男たちは黒い土の塊のように女性ばかりの集団を、
あるものは愛おしい気持ちで、あるものは猥褻な下心で…見ていた。
世辞であったり、供物であったり、さまざまな俗物を彩りと称して身に付ける
おんなたちには必ず垢が付く。
むしろその垢を誇らしく見せつけることで男を取り込んで生きていくことを覚え、
世渡りがうまくなっていく。
ところで、さて、何が、どう違うのだろうか?
その疑問はそのままその女性への興味になっていった。
心の中でいくつかの質問を試みたが何の答えも見つからなかった。
有り体に言うのであれば過去がほとんど見えない。
わずかに見える過去は彼女から与えられる数少ないヒントから推測することしか
できないもので、まことに頼りないものだ。
彼女の物語はAかBではなく、AでもBでもある…。そんなものは物語とは呼べない。
例えて言うならすべてが「仮定形」で書かれたレポートのような。
通俗的なパーティー会場の片隅。
こうして私はある人との邂逅を果たした。
つづく