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【エッセイ4】新聞配達

写真と本文は関係ありません


中学生3年生から高校1年生にかけて、約2年間ほど新聞配達を
していた。と言っても、その頃から朝が苦手だったので、夕刊
だけだ。それでも200部近くを配っていただろうか。新聞店の
古い自転車にまたがって新聞を配ることはそれほど苦痛ではなかった。

新聞配達をしていた理由は簡単で、お小遣いが欲しかったからだ。
なぜだか、母親にはあまり小遣いをくれ、といった記憶が無いので、
私はあまりものを欲しがらなかったのだと思う。

ただ、中学生くらいになると音楽に目覚めて、レコードを買うお金が
欲しくなった。それとステレオが欲しくなった。コンポーネント・
ステレオ、という奴だ。だから、私が物欲を覚えるようになったのは、
やはり音楽がきっかけだったのだ。

最初は友だちの家で聞いていた音楽が、家でも聴きたくなってきた。
当時、姉貴がいた同級生はことごとくビートルズのシングル盤が
あった。それを電蓄で聴いていた。また、親がクラシックを聴くよう
な金持ちの友だちの家には、家具みたいなステレオが置いてあった。

と言っても、聴こうにも当然、その家にあるレコード(あるいはフォノ
シート)は、ほとんど聴いてしまっているので、何度も行っている
うちに自分の好きな曲を聴きたくなってくる。そこで、シングル盤を
買おう!と決めてレコード屋に行くわけである。

いや、そのうれしいこと。その頃はシングル盤が330円とか370円
だったと思うが、レコード店のビニール袋に自分の買ったシングル盤を
入れて、持ち帰る時の高揚感といったら!そしてそのレコードを持参して
友だちの家に行く。まぁ、レコードを貸すというより、掛けてもらいに
行く、というのが正解だろうが…。

どういう訳だか、若い時は2〜3回も聴いてしまうと歌詞を覚えて
しまい、何だか食べ物の消化みたいに、あっ、という間にその曲を
消化してしまうような感じになる。もう、頭の中のスポンジが歌詞は
もちろん、どんどんメロディーとか、テンポとかも吸い込んでしまう。

こうなると、もうレコードがもっともっと欲しくなってきて…。バイト
である。初めて買った再生機はモノラルの電蓄だった。自分でレコード
盤の端っこにトーンアームを持って行って落とす。いかにも軽く、安っ
ぽくてプラスティッキーなクリーム色のトーンアーム。その先からは
まだ見たこともないかっこいい異国の文化が溢れだしてきた。

加山雄三の「青い星屑」。おそらくこのレコードが初めて買ったレコード
だったと思う。それから雑誌で通信販売しているフォノシートが安かった
ので、ベンチャーズとかも買った。当時の所謂ポピュラー、と呼ばれて
いた洋楽が好きになり、ラジオも必死で聴くようになった。そして、高校
1年生の時に名古屋駅のあるビルで開催されていた「東芝EMIフィルム
コンサート」というイベントに、ふらっ、と入ってビートルズやCCRを
(偶然)見た。そして私は完全にノックアウトされた。

新聞配達をしながら、次はどんなレコードを買おうか、と考えていた。
雨が降るとゴム引きのカッパが無茶苦茶臭かったし、ぐれていた同級生が
私の自転車を見かけると必ず蹴飛ばすので、近くの団地の配達から戻って
くるとよく自転車が倒れていた。でも、毎月数千円のバイト代。封筒に
入ったそのお金を数える時、いつも飛び上がりたいほど私はうれしかった。