【エッセイ12】ノアの方舟のこと
小学6年になった私は野球部に入り、そして日曜学校に通うことにした。
おいおいいきなりどうしたんだ?というそれまでの私からは想像できない
不可解な行動。その理由はごく簡単で、近所に住んでいたミッション系の
高校に通っていたおねーさんに誘われたからだ。
キリスト、プロテスタント、聖書、賛美歌…。不謹慎で申し訳ないが、これらの
言葉に私は妙に弱い…。さらに、その言葉を同級生の前で口にする私。その姿は
あたかもウイーン少年少女合唱団の一員のような、美しい輝きに満ちている!(はず)
目の中に星が三つくらいの自己陶酔。ま、こんなこともあって、あっさりと日曜
学校に通うことに決めた私だった。
日曜日の朝、あれは何時頃だったのだろうか?8時前だったような気がするが、
日曜学校のクルマが迎えにやってきた。小さなトラックを改造したようなクルマで、
運転席と荷台は仕切られていて、乗り込む時は後ろに取り付けられた特別なドアを
あけて中に入った。自衛隊や軍隊の人が運ばれて行くみたいに横並びに座って教会
に向かった。
教会での話は、わくわくするほど面白かった。イエスさまが誕生する時の話、
磔にされる時の話、蘇る話…。これらの話を自分で映像を想像しながら聞く。
これがすこぶる楽しいものだった。マリアさまが納屋にいる…、ということは
馬がいて、干し草がうずたかく積まれていて、農具とかが置いてあって、電気は
ないから、ランプが下がっていて…。
しかし、子ども心にいちばん刺激を与えたのは「ノアの方舟」の話だった。
動物たちが船に乗り込んでいくシーンを想像しながら、こんな船に乗る
ことができたら、うれしいだろうなー、などと思って聞いていた。
日曜学校では、夏休みに1泊で田舎の教会にもでかけた。それから、クリスマスに
名古屋市公会堂に行って、みんなで練習した賛美歌を歌ったりもした。何だか垢抜
けた時間の過ごし方をしていないかな?私はひとりで悦に入っていた。