【エッセイ13】思い出すこと
きれいな恋の話。
今から書くことは、私のことではない。友人から
聞いた素敵な彼の恋の話だ。
今や、すっかり財をなして端から見ればかなりリッチに見える彼。
会社を興して順風満帆である。そんな彼は実はバツ一。以前の結婚
生活では子どもができなかった。
そして彼はひょんなことから子どもを授かる。けれどもその子どもは
彼のその時の奥さんとの間に授かった訳ではなかった…。悩んだ挙げ句、
彼は離婚をして、妊娠をした女性との結婚を選択した。
その彼が、私にこんな話をしてくれた。
「以前の結婚生活で、とても悔いを残していることがあるんですよ」。
それは一体どんなことなのだろうか…。尋ねてみたら、彼はこう言った。
「あの頃は会社に行く前、いつもぎりぎりまで寝ていて、彼女が私の
ためにつくってくれていた朝食に手をつけないまま、よく出勤したんです」
「その時に彼女がとっても寂しそうな顔をしていたのが、今でも忘れられ
ないんですよ」「あの朝食、食べていればよかったなぁ。」
その話を聞いた時、私はその光景が本当にリアルに浮かんだ。新聞を
読んでいる彼。食卓に朝食の皿を並べている奥さん…。そして、手を
つけないまま出勤する彼の背中を見ていた奥さん。
世の中はままならないものだ。愛だとか、情念だとかとは違うもので
行く先が変わっていく。そして時として、それを受け入れていくことが
宿命と呼ばれるものなのかも知れない。
でも、いいじゃない!そのことをそんな風に振り返って、言葉にできる
のだから!だって彼が過ごしたその時間は、何ものにも代え難く素晴ら
しく美しい時間だったのだから。