【短編】ふたりのトモコ(10)最終回
知子が愛したもうひとりの友子は40歳近くになっていた。
そしていろいろなことを思い出していた。
あれから知子はどうなったんだろう?
じぶんはすっかり普通の暮らしをしている。
大学の同級生だった男性と付き合って、結婚した。
何ひとつドラマチックなことは起きなかった。
結婚式には知子に来て欲しかったけど、連絡先が分からなかった。
お母さんは相変わらず近藤さんと仲よくしている。
そして昭和が終わり平成になっていた。
ある日、街を歩いていたら知子によく似た人を見つけた。
すっかり痩せてしまい身なりもあまり良くなかった。
ねぇ、知子だよね?
返事もしないでその知子らしき女性は雑踏に消えていった。
知子はもう生きることがすっかり嫌になっていた。
でも大の仲良しだった友子のことを忘れたことはいちどもなかった。
友子は幸せに暮らしているのかな?
そんなことを想像するとじぶんも幸せな気持ちになる。
友子、元気にしてる?
友子、私はもうダメ。
何をやってもうまくいかなかくて、身体まで売ったよ。
最初は綺麗だ、綺麗だって言われてさ、買ってくれる人も
たくさんいたよ。
でも何回も性感染症にかかって、体調を崩しちゃった。
妊娠もしちゃって、何回も堕ろしたよ。
医者に言われて子宮を取った。
知らないうちに涙がいっぱいこぼれてきて…。
うん、久しぶりに泣いたら、わたし人間みたいだ、って
思ったよ。
どうして突然そんなことを思ったのかな。
そうそう今日、友子とすれ違ったよ!
声をかけてくれたね。
でも…。
かつて同じクラスにふたりのトモコがいた。
ふたりはとても気が合い、姉妹のようにじゃれていた。
そのうちのひとりは40歳を目前にしたある日、大量の睡眠薬を
飲んだ。
意識を失う直前、何かを言ったようだったが、もちろんその言葉は
誰にも聞かれることはなかった。