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【短編】幸福を展示する美術館(4)

本文と写真は関係ありません

その日はからりと晴れ上がった気持ちのいい日だった。

朝早くに目が覚めた美奈子は鼻歌を歌いながら、先ずは
洗濯を始めた。

洗い物はたっぷりあった。

その理由は、相当な量の血を吸いこんだ服や、血に濡れた床を
拭いた雑巾代わりのTシャツなどがかなりあったからだ。

鼻歌の歌詞を途中で忘れてしまったので、ハミングで歌を続けた。

ベランダにそれらの洗濯物を干しながら、ときおり部屋の中を
振り向いては暗澹たる気持ちになった…。

もう既に物体と化したその「もの」は、手に負えないほどの
存在感があり、目眩がするほどだった。

ここで誤解をされてしまうといけないので少し注釈を加えると、
誰もが「死体」だと想像しているに違いないその「もの」は…。

実は。

美奈子が殺めた「もの」ではなく、昨日帰宅した時にどういう
わけだかダイニングキッチンに倒れていた「もの」なのだ。

いささか気が滅入ったが、あるものは仕方が無い。

近寄って観察すると派手なTシャツ姿の長髪の若者だった。

TシャツにはTレックスのマーク・ボランが描いてあった。

倒れている若者とTシャツのマーク・ボランがあまりによく
似ていたので、美奈子はすっかり本人だと思ってしまった。

ちょうどiPhoneに20thCenturyBoyが入っていたので盛大な
音量にして、お気に入りのイヤホンで聴くことにした。

Tシャツの方のマーク・ボランはその唇辺りにナイフが刺さ
っていて、かなりサイケデリックな色彩になっていた。

内心「めんどくせえ」と思ったが、そこいら中が赤い液体で
溢れているので、仕方なく綺麗にすることにした。

かなり気持ちは悪いのだが、繰り返し大音量で聴いている
29thCenturyBoyのおかげでちょっとずつ気が楽になった。

ナイフを抜くと、じょろ、っという感じでケチャップがお腹の
横に流れてきた。

美奈子は「これはケチャップだ!」ということにしよう、と
決めていた。

だって「血なんだ」って思ったら気分悪いし。

いやいやそもそもそれは「血」なんだけど。

女の力で男の身体を動かすことは大変だったが、Tシャツを脱がせ、
ジーパンも脱がした。

ださい白いブリーフをはいていたので、思わずひとり言を言って
しまった。

「かっこ、わる〜!」
血だまりはマーク・ボランから脱がせたマーク・ボランの
Tシャツや、もう着ないだろうな、と思った自分のミッキー
マウスのTシャツなどでで拭いた。

何だかんだと時間が経ち、午後3時ほどになってしまった。

「もの」をこれからどうしようか?

冷静になって考えることに決めた美奈子は、ある美術館へ
向かっていた。

よくよく考えてみれば、どうしてあんな災いが自分に降り
かかったのか…。

それを美術館で考えよう…、そう思っていたのだ。

自宅のマンションを出て、青白い顔をしてバスに乗った。

美術館近くのバス停を降りた美奈子は、歩いているうちに悲しく
なってきた。

そして丘の上にある美術館に着いた。