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【短編】幸福を展示する美術館(5)最終話

本文と写真は関係ありません


嘘をついたら、すっきりした。

福安はそんな私を見ながらにこにこしている。

「ところで、その…マーク・ボラン…でしたっけ?」

「あ、マーク・ボランに似ているだけの若者です」

「それは、その後どうなっているのですか?」

そう福安が尋ねるとほぼ同時に美奈子のスマホに着信があった。

「すみません、ちょっと電話に出てもいいですか?」

福安はにっこり笑いながら大げさに手のジェスチャーで、どうぞ、
と示した。

美奈子は席を外して離れたところに行きぼそぼそと話している。

福安はその時間を利用して先ほど聴いた話をノートに綴った。

やがて電話を切って美奈子が戻ってきた。

「悲しみの理由をお聴かせいただき、ありがとうございました」

福安は美奈子に謝意を伝え、話の続きを促した。

「マーク・ボランに似た若者は?」

美奈子はそわそわし始めた。

だって、あの話は全て嘘なのだから…。

福安は美奈子の狼狽ぶりを見て誤解したのか、猫なで声でこう
言った。

「きっと思い出したくないんですね、けっこうですよ、もう
話されなくても」

美奈子は口角を上げて急に大声で笑い始めた。

「分かっているくせに、よくそこまで話を合わせられますね!」

大きな笑い声をあげている美奈子を、福安はじっと見ていた。

そして…。

「良かった、とても楽しそうに笑ってくれた」

そう言うと、美奈子に飛びかかり首を絞め始めた。

美奈子は驚いたように、思い切り見開いた目で福安を凝視していた。

面白いなぁ、目の玉が落っこちそうだ…。

そんな想像を楽しみながら福安は首を絞め続けた。

いきなり美奈子の身体の力が抜けた。

床にだらしない姿で倒れている美奈子を眺めながら福安は、妙な
幸福感に包まれていた。

いつごろからか彼は生きものの命が果てる瞬間を体感することに
とてつもない快楽を感じるようになっていたのだ。

手慣れた感じですっかり動かなくなったそのものを引きずって、
福安は美術館の裏庭に来た。

枯れ葉でびっしりと地面が埋もれている裏庭。

福安はその庭にしばらく佇み、空を見上げた。

すっかり暗くなっていたが、いつもにまして月が明るく輝いていた。

幸福感のあまり、福安は涙を流していた。

先ほどまで息をして油断なく動いていた生きものの命を、自分の手で
終わらせた、その感触を思い出しながら…。

そして心の中で呟いた。

「全ての人が、幸せでありますように」