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【短編】ふたりのトモコ(4)

写真と本文は関係ありません

12歳になった知子は日曜学校に通うようになっていた。

日曜学校で讃美歌を歌うんだけど、いつも私はうっとりしちゃう。

もちろん、それは自分にだけどね。

歌っている自分の姿を想像すると、本当に可愛いくて…。

きっと私はとってもきれいな女の人になるんだろうな、って変な自信が
湧いてくるの。

本当はカソリックとプロテスタントの違いもよく分かっていないけど、
同じマンショに住んでいるお医者さんの娘さんが誘ってくれたから
教会に行くことにした。

なんとなく響きが良かったから。

「日曜学校」なんて。

しかもお話しが面白かったから、けっこう気に入っちゃったの。

特に「ノアの方舟」のお話しは最高だった。

自分がもしその方舟に乗っていたら、どんなんだったんだろうか…。

象とかキリンとか、熊とかワニとか。

そんな動物たちと一緒に舟に乗っている。

もうたまらなく素敵だよ!

動物なんて好きじゃないけど、そんな風に動物たちが傅いている様子を
想像するのは愉快なことだったし。

通っている子は、牧師さんのお話しが始まる前に「天にまします我らの神よ…」
って言葉を最初に言って、それから自分自身の誓いみたいなことを言うん
だけど、それもお芝居のセリフみたいで、めっちゃ好きだった。

日本舞踊はずいぶん上手く踊れるようになったと思っている。

そもそもママの彼氏の歌舞伎役者が、どうしても習わなきゃだめだ、って
言うんで日舞を習うようになったんだけどね。

しかも流派は「阿久野流」じゃなきゃ許さない、なんて主張するから、
ずいぶん遠い所にお稽古に行っていた。

踊りも流派によって少しずつ違っていて、吉野旦那、あ、ママは彼氏の
ことを吉野旦那って呼ぶからね。

(だから私も吉野旦那って呼ぶことにしてる)

その吉野旦那が尊敬している役者さんの流派が阿久野流なんだって。

でも確かに他の流派よりいいかも。

動きや表現がちょっと大げさなところが私も好き。

もう少し大人になったら「藤娘」を踊りたいなんて思っている。

だってもう本当にヒロイン!って、感じなんだもん。

そんな私には、実は大親友がいる。

小学校が同じで、名前が偶然「トモコ」だったことが、きっかけで
仲良くなった「友子」。

友子は子どものくせに女っぽくって、ちょっと憧れ。

私はどちらかと言えばお人形さんみたいな可愛さだけど、友子は違うの。

ザ・女。

だけど、友子んちはあまりお金がなさそうな感じ。

それでも構わないけどね、友子とは気が合うし。

あ、それから二人の共通点はママしかいないこと。

俗に言う母子家庭。

気にしてないけどね。

そんなことどっちでもいいと思ってる。

ふたりでいろんなことを話していると、嫌なこととか忘れちゃう。

うん、友子は私の味方なんだ、って思えるからかな。