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【短編】ふたりのトモコ(5)

写真と本文は関係ありません


12歳になって、ふたりはおぼろげに自分の将来が見えてきていた。


10歳の頃は、そんなことはなかった。

起きていた出来事は一瞬のことで、それはまさに偶然起きていた
ものだと思い込んでいた。

ところが12歳になると、今までのことは偶然ではなくて、必然的に
起きていたことに気がついてきた。

友子は棚橋さんのことや山田さんのこと、それから新田さんのことも
あまり深くは考えたこともなかった。

でも、男の人(って言うか)おじさんみたいな人がいつも自分の近くに
いることが何となく当たり前なんだ、と思えるようになってきていた。


知子も同じように考えていた。

クラスメートとは全く違う世界をいっぱい見ていた。

いつも、高級なんだけどちょっと野暮ったい服を着せられていたけど、
そんな服を着ていると、大人たちは他の子とは違った対応をするし。

100パーセント間違いなく「可愛いお嬢さん」と言うし。

ママと旅行に行くと必ず高そうなホテルに宿泊するから、そういう
場所に行ってもなんとも感じなくなってしまったし。


ふたりは自分を導く新たな扉が現れたことをしっかり自覚していた。

ふたりは中学になると離ればなれになってしまった。

友子は地元の公立中学へ。

知子はミッション系の私立中学に行くことになった。

それがひどく寂しかったので、中学に上がる直前の春休みに、友子は
友子の家に泊まりに行って思い出話をたくさんすることにした。

知子のママは何だかとてもいい人で、友子にもとても優しくして
くれていた。

友子は以前から時々泊まりに行っていたけど、夜遅く帰ってきても、
知子のママは、寝ているふたりのトモコをいつもしっかり抱きしめてくれた。

友子のお母さんは、そんなことは絶対にしなかったから、そんな時に
友子は不思議な幸福感で満たされた。

だからいつからか友子も知子の母親をママと呼ぶようになっていた。

友子はママが大好きだった。

ママは時々、二の腕に注射を打っていたけど、きっとどこかが悪いんだ、
と思っていた。

ママは注射を打ち終えると目を閉じて、いつも小さくため息をついた。