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【短編】ふたりのトモコ(7)

写真と本文は関係ありません


痛みは想像していたほどでもなかった。

ベッドのシーツを見たら、濃いピンク色が残っていた。

気がつかなかったけど、窓の外では蝉がやかましく鳴いていた。

身体は汗でぬるぬるしていたし、終わった時には早くシャワーが
浴びたい、ということしか考えていなかった。

ジッポーの蓋を開ける音がしたので振り向くと、端正な顔立ちの
若い男がタバコをくわえていた。

大学の医学部に通っていたその男は、そのいちどきりで知子の
前には現れなかったけど…。

意外なことに私は身持ちが堅かった。

友だちには遊んでいると思わせておきたかったから、わざと知った
かぶりをしていた。

でも、暑さでどこかのネジが落ちてしまったのか、その軽い男の
誘いに乗った。

初めてああいう営みを行うためのホテルに行った。

そこの駐車場は垂れ幕みたいなやつが何枚かぶら下がっていて、
入る時は、なにこれ、洗車機みたい、て思っていた。

その時私は少し笑っていたに違いない。

男はオープンカーに乗っていたけど、いきなり道端に車を停めて幌を
たたんでいたから、その時にはそこに入るつもり満々だったわけ。

今となってはどうしてその男とそんなことになったのか、どこで
会ったのかさえも覚えていないけど。

男のタバコを指でつまんで取り上げて、知子も同じように吸って
みた。

ほんの少ししか開かない窓からの風で煙が揺れた。

今さらだけど男がエアコンの風量を強にした。

大人ぶっていた知子は、17歳で本物の大人になったんだと
思っていた。

高校の帰りはいつも駅のトイレで着替えていたから、制服が
入ったチェックの鞄はかなり膨らむ。

それを駅のコインロッカーに入れていて、遊びに行った帰りに
出して家に帰っていた。

ママは深夜にしか帰ってこないから全然ばれなかったし、お化粧も
落としていたから、ママから見れば知子は相変わらずいい子そのもの
だった。

17歳…。

たかだかバージンを無くしただけの夏。

知子は思い出とも呼べないような退屈な日々が続くことを恐れていた。