【短編】ふたりのトモコ(8)
お母さんが結婚してから、友子はすっかり普通の女の子に
なっていった。
いろいろと何だかんだとあった子どもの頃とはうって変わって、
高校生活は充実した毎日になっていた。
中学生の頃はまったくできなかった勉強でもめきめき成績が
上がり、学年でもトップクラスになった。
その結果、友子は現役で難関の国立大学の文学部に合格し、
美学(エクセティクス)を専攻した。
20歳になった友子はすっかり美しい大人の女性になっていたが、
あえて化粧もほとんどせず、眼鏡をかけ服装もコットンパンツに
ポロシャツ、といったようなラフなスタイルで通していた。
それでもさすがによくふくらんだ胸はポロシャツの上からでも
はっきりと分かり、パンツ姿は逆にきれいな形のヒップを却って
強調することになっていた。
子どもの頃に起きたいくつかのできごとは、もうすっかり忘れて
しまっていた。
というより、忘れることにしたのだ。
お母さんが近藤さんと結婚して、まるで以前のことは何も覚えて
いないように振る舞うのを見て、友子もそうすることにした。
それが自分にとっていちばんいいんだ、と自身に言い聞かせもした。
だから表面的には友子は聡明で快活。
一見しただけでは心に暗闇を持っているような人には全然見えない
はずだった。
このまま大学を無事卒業して就職。
結婚をして、ごくごく平凡な暮らしをしたいと切実に願っていた。
ちゃらんぽらんだった母親も、結婚してからはいい奥さんに徹していて、
お酒も飲まなくなっていた。
心配は杞憂に終わっていた。
でも、こんな日々が続くことに友子は怯えていた。
こんなに順風満帆な生活が本当にこのまま続いて行くのだろうか?
大学の図書館で資料となる文献の文字を目で追いながら、友子は
時々猛烈な不安に苛まれていた。